ニコラウス・ガッター
1954年8月28日 土曜日
ニュージーランド・クライストチャーチで、ある裁判が開かれた。
5回にわたる審理ののち、判決が言い渡された。
ジュリエット・ヒューム、15歳、離婚したヘンリー・レインズフォード・ヒュームとヒルダ・マリアン・ヒューム夫妻の女子、リバリー生まれ。
ポウリーン・イヴォンヌ・パーカー、16歳、ホノラ・メリー・パーカーとハーバード・ディトレフ・リーパーの非嫡出女子。
二人はポウリーンの母親を共同で殺害し、有罪とされた。
犯行の経過が解明され、被告人の犯行を自供したことにより、審理は主に、この二人の少女の犯行の時点での責任能力があったかどうかということを巡って進行した。
綿密な精神医学的な調査とポウリーンが書いていた犯行に至るまでの日記から“二人の誇大妄想幻覚”との鑑定を受けるが、最終的には責任能力があったとみなし、懲罰刑を科す。
空想好きな女子校に通う二人の少女が、お互いの才能に惹かれて物語を作る。
想像と現実の中、ふたりの心は通い合い、二人だけの世界に没頭していく。
ポウリーンの母親が、誰も入れない空想の世界や、自分たちを引き裂くと考えた二人は母親を殺し、あくまで自分たちの世界を守ろうとした。
1994年に映画化されたこの作品は、ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞している。
幻想的な世界を見事に描いた映画と違い、原作は、二人の心を克明に描いている。
実際にニュージーランドで起きた殺人事件。
主人公の一人のジュリエットは、作家として成功しているそうだ。
映画でこの作品を最初に見た時の衝撃は本には感じなかったが、本ならではのきめの細かい描写が、よりこの少女たちの心を現している。
社会からの断絶が、より二人の関係を強烈に強める。
クランマー・スクェアの女子高校に転校してきたジュリエットは、ポウリーンと仲良くなる。
小さい頃から病気がちのジュリエットに仲の良い友達が出来たとヒューム夫妻はとても喜ぶ。
ポウリーンは、下宿人を置く家で暮らし、炊事や掃除をこなす。
病気がちな母親の代わりを務め、手際よく家事をこなすことは嫌いではなかった。
郊外の豪華な邸宅で暮らすジュリエットの家やポウリーンの家などに出入りし、二人は空想の世界で暮らす。
その空想を小説にして、いつか世に出そうと二人で計画する。
勉強そっちのけで、小説を書き、いつでも一緒に居たがる二人の余りの仲の良さに、周りの大人たちは、異常なものを感じ、少しずつ二人を引き離そうとするが、自分たちの世界にはまり込んでいる二人には、周りの心配も、心使いも、すべてうっとうしいだけのものになっていく。
そんなある日、ジュリエットは吐血し、再び入院する。
その出来事で、お互いの存在の大きさを確認する二人だった。
“二度と離れない”と誓う二人。
そんな折、ジュリエットの両親の離婚が決まり、ジュリエットは、ニュージーランドを離れることが決まる。
失望と苦しみの中、ジュリエットと共に、ニュージーランドを出る決意をするポウリーンだったが、ポウリーンの母は断固として反対する。
『自分たちを引き離す悪い母』を殺してでも、二人で一緒に居ることを決意したジュリエットとポウリーンは、ジュリエットの旅立ちが近づくある日、母親を岩で叩いて殺す。
ジュリエットは1959年11月に釈放され、ニュージーランドを去り、母のもとに移住する。
ポウリーンも保護観察のもとに釈放され、1965年までニュージーランドに留まった。
二人の釈放は、けっして再会しないとの条件のもとに実現された。
(J)