百田 尚樹  (ひゃくた なおき )
1956年、大阪生まれ。
同志社大学中退。
放送作家として人気番組「探偵!ナイトスクープ」など多数を構成。
2006年、太田出版より刊行された『永遠の0(ゼロ)』で作家デビュー。
『ボックス!』『聖夜の贈り物』などがある。

この本の解説を児玉清さんが書いている。
その解説のところに、「涙なしに読めるでしょうか?」とあるが、私は、涙無しには読めませんでした。

途中で何度か本を読むのを中止して、一泣きしてから、また読む。
こんな本の読み方は多分生まれて初めてだと思います。

何がそこまで感動したか・・・。
読み終わり、じーーーーと考えてみました。

一つは、“命の連鎖”であり、“この人の為なら死んでもいいと思える。
また、そんな人の持つ強さや人間としての美しさ”だと思いました。

人は一人で生きているのではないし、命は繋がっているとも言います。
自分一人の命でないともいうしね。
でも、この言葉を、頭では理解しても、実感を持って感じる機会って本当に少ないし、どういうこと?って考えてしまうこともありました。

第2次戦争という状況の中で、死を通じて伝えられる“愛”。
悲しく切なく伝わります。

この本を読んで、“人のつながり”を少し理解したように思います。
今現在を、一緒に生きているという繋がり方(例えば、今回の震災のように、同じ時代、同じ空間に在り、苦しさや楽しみ、また時には憎しみも共有するという繋がり方)もあるでしょう。
そして、会ったことも見たこともない人とも、永遠という時間の中で、共に生きることもあるという事です。

この本の『永遠の0』とは、ゼロ戦パーロットのゼロです。
日本が世界に誇った名戦闘機です。

忘れてはいけない歴史を本の中に見て、決して無駄にしてはいけない、繰り返してはいけないことがあるんだと、再確認しました。

本書は、その戦闘機に乗って、終戦まじかに戦死した祖父のことを知るために、佐伯健太郎と姉の慶子が空軍時代の祖父を知る人たちを訊ねて、話を聞いていくというストーリーです。

健太郎は4年連続で司法試験に落ち、人生と言うか未来への希望を失いかけています。
姉はの慶子はフリーライター。
仕事と結婚の狭間で揺れ動きます。
人生に「愛」は最優先させるべきものかどうか迷います。

二人の祖父である宮部久蔵が本当の祖父」であるというはなしは、祖母が亡くなった6年前に始めて明かされたことでした。
戦争で二人の結婚生活は短かって、戦後、現在の祖父と再婚しています。
その短い結婚生活で生まれたのが、二人の母です。
彼らの生まれる30年も前に死んだ祖父。

調べていくうちに、宮部久蔵の人柄が浮かび上がります。
死の直前まで、妻と子供の元に帰ろうとしていたことが・・・。
その彼の態度に卑怯者・臆病者などと言う声も聞こえてきます。

天才的な飛行機乗りでもありながら、短い結婚で約束した『必ず帰る』という約束をし、その約束を守ろうとした事実が浮かび上がります。

戦争は、色々な形で語り継がれています。
学徒出陣など選択の余地なく戦争に駆り立てられた人たちもいます。
そして、ゼロ戦や人間魚雷として生きて帰る可能性もほとんど残されていない、そんな人たちのことが書かれており、宮部が最後まで生きようとしながら、なぜ、ゼロ戦に乗ったかと言う謎が、本書の最後の意外な展開・事実へと続きます。

戦争中は、“御国のために戦った人”と称えながら、敗戦と共に村八分になるとか、人間の日和見主義の怖さも描かれています。

祖父の生き方を聞きながら、二人の姉弟の心は変化していきます。

〝命の連鎖”は色々な形で引き継がれていくようです。
何を引き継ぐかまた、どう自分に向き合い、どう自分と関わるかは、本人しか選べないという当たり前の事実を強く意識させる、そんな1冊でした。
(J)

「永遠の0」