萩原 浩
1956年埼玉県生まれ。
’97「オロロ畑でつかまえて」で小説すばる新人賞を受賞。
2005年には『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞した。
著書に『さよなら、そしてこんにちは』『サニーサイドエッグ』『千年樹』『四度目の氷河期』『押入れのちよ』『あの日にドライブ』などがある。
大手広告代理店を辞めて、運よく「珠川食品」に再就職した佐倉凉平は、入社早々に販売会議中にトラブルを起こし、
通称旧館にある「お客様相談室」という部署に配属替えになる。
そこは、商品のクレーム処理をするところだったが、実はリストラ要員の強制収容所といううわさが流れていた。
凉平は半年前に彼女と別れていた。
別れたというよりは逃げられていた。
学生時代からやっていた音楽グループ時代に腕に入れ墨もした。
衝動買いしたギブソンのギターの支払いもあるし、家賃もある。
辞めようにもお金がない。
あとしばらく働いて、また就職先を見つけざるを得なかった。
初めて「お客様相談室」に出勤したときにも、本間室長は自分の爪を砥いでいて、凉平の顔も見ない。
一番のやり手といわれる篠原は、賭け事が大好き。
仕事の間にも居なくなる。
地響きがするほどでかい体の神保君は声が出ない。
山内君はパソコンから動かない。
そんな「お客様相談室」には個性的・奇妙なメンバーがいた。
ハードな毎日を生きることになった凉平だが、
次第に仲間との不思議なつながりを感じ始めて、仕事に奮闘し始める。
逃げずに仕事に踏ん張る凉平は、次第に要領を覚えて一人で熟すようになっていく。
仕事に楽なものはない。
真剣にやればやるほど難しさが見えてくる。
そんな心理と情熱をユーモアに書く。
(J)