草柳 和之
自分に暴力が向けられる時、 それは、アルコール依存・摂食障害etcのアディクション,リストカット。
人間関係に暴力が向けられる時、それは、DV(ドメスティック・バイオレンス)、いじめ、レイプ,さまざまな虐待。
フェミニズムの女性たちが、女性解放・人権運動をBaseとして、DV撲滅運動は展開されてきている。
アメリカのシェルターをはじめ、被害者支援は、日本のものとは比べものにならない程、充実している。
そして、加害者への法令化・法的規制による脱暴力プログラムへの参加は、非暴力で対等な人間関係をめざし、安心で安全な夫婦・恋人関係を目指す。日本の10年先を行っているとも言われている。
著者は、DVという名称が日本でほとんど知られていない時期から、アメリカにわたり,加害者プログラムの方法論を学ぶ。その経験やDVに関係する様々な取り組みから独自の加害者プログラムを作成し、本書にまとめている。
DV加害者プログラムを大きく2点で捉えている。
- ジェンダー意識の変革、そして、対等性の問題。
妻(女性)が“夫から殴られた”と回りの人たちに話すと返ってくる答えの多くは、“夫(相手の男性)がそれほど怒っていることは、あなたが何かしたんじゃない?”という答えである。 - 嗜癖行動としてのDV。トラウマetc.を含む治療モデルの必要性。従来虐待etc.を含むトラウマを過去に経験している人は、加害者になりやすいといわれている(一番端的な例がナチスのヒットラーである)。加害者全体の2分の1以下3分の1以上がこれに相当するという。
それと、DVは、嗜癖(アディクション)でもあるという。実際に、暴力克服のプログラムを受けても、DVのサイクルから抜け出すのは難しい。
その理由に、男性の暴力を受け入れる社会や、本人のモチベーション(動機)の低さ、心理療法やプログラムに関わる人たちの認識の低さが挙げられている。では、どのようにして加害男性の暴力克服を支えるか。
筆者は、三種類の暴力克服プログラムを提示している。
- 加害男性専門相談・・・個人心理療法。ジェンダーに基づく嗜癖の根底にある無価値感、無力感の解消。
- 自助グループ・・・自助グループは共通な問題障害を持った当事者が集い、お互いに支えあい、各々のメンバー自身の力で新たな生き方を活性化しようとするグループで、「言いっ放し」「聴きっぱはし」を要とする。
- 暴力克服ワークショップ・・・暴力を生み出す様々な要素を理解し、それを介助するための集中的なグループワーク、集団心理療法を実施する。
それ以外に、トラウマに対応するインナーチャイルドワーク、関係変化を促すコミュニケーションスキルetc.様々な角度からの心理アプローチを持つ。日本で、加害者プログラムに取り組んでいる人は、ほんの少数である。
しかも、被害者支援の人たちからでさえ、反対の声が上っている。その理由は、暴力から立ち直ることは、不可能に近いということ。
加害者自身の心の奥底にひそむ自分への自信の無さや無力感・依存性に目を向けることの難しさが在る。
それと、加害者男性を受け入れる社会システムの存在。また、DVを個人的な心理療法の対象とする考え方は、社会・ジェンダー意識が背景にあるDVの問題意識を薄めてしまい、
結果的に社会から暴力を追放できなくしてしまう危険性があるという。
怒りの受容⇒感情の取り扱い⇒コミュニケーション・スキルのアップ⇒適切な言葉の表現(アサーティブな表現を身につける)⇒怒りの変化・適切な感情への変化⇒恐怖の受容⇒自己認識⇒被虐待体験(トラウマ)ケアのプロセスを経て、加害者として十全に生きるため、誠実さ・素直さ・非対等性・自己責任・誇りを身につける。
本来の謝罪とは、過ちを犯した側が楽になりためにあるのではなく、苦痛を受けた側が少なくとも納得できる方向に進むためにある点を確認しなければならない。
本文 参照
(J)