加納 朋子 (かのう ともこ)
北九州市生まれ。
文教大学女子短期大学部文芸科卒業。
一九九二年『ななつこの』で第三回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
一九九五年、『ガラスの麒麟』で第四八回日本推理作家協会賞を受賞。
著書に『魔法飛行』『掌の中の小鳥』『月曜日の水玉模様』『沙羅は和子の名を呼ぶ』などがある。
堀井千波は、物音が夜遅くまで響く、新しく引っ越したマンションの周囲の音に悩む。
生活の時間帯が違い、千波の睡眠時間に周囲は動いている。
音に悩み不眠になった千波は、父親にそのマンションからの引っ越しを告げる。
その引っ越しの準備をする中で、見つけた一冊の本 『いちばん初めにあった海』。
読んだ覚えのない本に興味を惹かれ、ふと手にした本のページから、未開封の手紙が出てくる。
『私も人を殺したことがあるから』という言葉や、書かれている内容が心から離れない。
しかし〈YUKI〉と書かれた差出人に覚えはない。
この手紙は高校生の時のものらしい。
千波が入院生活を送ったその時に、手渡されたらしいその手紙を基に、千波はこの〈YUKI〉を探し始める。
卒業アルバムからYUKIを探す。
思い当たる人に連絡を取る。
そして思い出に浮かび上がる人物は、仲の良かったグループとは違う一人の少女だった。
その名は〝結城麻子”と言った。
それと同時に、千波は『いちばん初めにあった海』の本の著者にどうしても会いたいと思う。
どうしたら会えるのだろうか。
心に傷を負った二人の女性が、出会い心を通わせる。
『自分が殺してしまった』『自分のせいでこうなった』と、自分を責める心が、さまざまな出来事や状態を引き起こす。
千波は口がきけなかった。
父とはファックスでやり取りする。
どうして自分がこうなってしまったのか分からない。
どうしても思い出すことができない。
不自由は感じないが、でも思い出すことができない。
どうしてこうなったのか。
手紙を書いた人を探しながら、引っ越しの準備をしながら、千波は封じ込めた過去の出来事に、再び出会わなければならなくなっていく。
覚えていたくないからつらい出来事だから、記憶から消し去る。
でも時には忘れ去りたいその出来事を、再び思い出す必要がある場合もある。
謎は謎を呼び、過去は過去を呼ぶ。
読みながら、本を捲るのももどかしいほど、先を急ぐ自分がいた。
(J)