「人生がうまくいく哲学的思考術」  白取 晴彦

 

 

 

 

著者紹介
青森市生まれ。
ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。
既成概念にとらわれないで、哲学と宗教に関する解説書の明快さには定評がある。
主な著書に『超訳ニーチェの言葉』『頭がよくなる思考術』『独学術』『この一冊で「聖書」がわかる』などがある。

 

 

第1部 本当に幸福な生き方

6 仕事そのものを楽しむ

多くの人が仕事と仕事にまつわることで苦労している。
憧れていた職業に就けない苦しみ。今の仕事に満足できないが、かといって簡単に転職もできない苛立たしさ。今の仕事から生まれてくる多大なプレッシャー。
充分に稼げないつらさ。仕事に自分の個性や技術が活かせない不満。同僚や取引先との間の人間関係の難しさ。自分が手がけている仕事の社会貢献性や遵法性への疑い。転職や起業への不安。

仕事からは金銭だけでなく楽しみが得られる

高い報酬、あるいは保証された高給。充実した福利厚生と設備。容易にこなせう仕事。短い拘束時間。たっぷりと恵まれた休暇。企業のこういう条件に魅了されて入社した人は本当にばりばりと仕事をするのだろうか。汚職も横領もなく、いつもいきいきと働く社員として勤め上げることができるのだろうか。
仕事によってわたしたちは金銭を得る。けれども、仕事は金銭を得るためだけの手段ではないだろう。金銭取得だけが目的ならば、金銭そのものを強奪、略取、詐取するのがもっとも手早いからだ。
わたしたちは仕事を通じて金銭を得ることができるが、仕事の意義はその仕事に自分が関わることにあるはずだ。
生活者の観点に立った哲学を説いたアランは『幸福論』の中でこう書いている。「役の立つ仕事はそれ自体において楽しみである・・・・・・仕事から得られる利益によってではなく、仕事それ自体においてなのだ」(神谷幹夫訳 以下同)
あっさりと、そして明瞭に書かれたこういう文書はそのなめらかさのために不注意に読みすごされやすいものだが、人間にとっての仕事の第一義を端的に指摘している。
自分の楽しみとならないような仕事は誰も手がけたくないものだ。しかし、この場合の楽しみとは安易な娯楽や遊興の楽しみとは性質が異なる。困難さ、危険性、見通しのきかなさ、成就の確度の低さといったものも仕事の楽しみとなるからだ。
「いったん課題が与えられると、今度は課題そのものが楽しいものとなる」
「すなわち、つくり出す楽しみ、現実のものにする楽しみ、欲する楽しみ、そして仕事をする楽しみ」
だから、仕事の楽しみは享楽と同じレベルの楽しみではない。自分から積極的に関わっていく楽しみ、危険性を承知しながら積極的に挑んでいく楽しみなのである。