2011年 フランス作品
カンヌ映画祭批評家 50周年記念作品

この映画の監督で脚本も手掛けたエヴァ・イオネスコ自身をモデルにして作られた映画である。

エヴァ・イオネスコの母親はイリナ・イオネスコで、有名な写真家である。
エヴァは、4歳から12歳まで、母のモデルとして、ヌード写真なども含めた写真を撮る。

エヴァ自身の体験はもっと過酷なものであり、そのまま映画にしたらホラー映画になると言う。

幼くて何の意味があるのかさえわからず、知らない間に売り出された自分の写真が、大人が買うことをしり、拒否するようになったらしい。
1977年に出版された写真集は、『芸術かポルノか?』の論争になったと聞く。

ヴィオレッタはバアバと暮らしている。
母親のハンナはいつ戻ってくるかさえ分からない。
時々、酔っぱらっては家に帰り、またすぐに出かけていく。

母ハンナはいつも美しかった。
そして男と一緒のことが多かった。
芸術家を名乗る母だが、絵では一向に目が出なかった。

ハンナの友達の芸術家から貰ったカメラで、写真を撮り始めたハンナは、そのモデルとして娘のヴィオレッタをつかう。

化粧をし、美しい服を着て、ましてやいつも母と居られることを、ヴィオレッタは喜ぶ。
カメラの前で、ハンナはヴィオレッタに色々な注文を出す。
『もっと首を後ろに引いて!』『もっと艶めかしく!』
そんな母親の注文に答えるヴィオレッタだった。

そんなハンナの写真が、人々の目を引くようになる。
幼いヴィオレッタの奇妙に艶めかし退廃的な写真は、人々の心を引き付ける。

が、学校ではヴィオレッタは周りの子どもたちから浮きだす。

『ヌードモデルをやっている』と噂が流れ、子どもたちから囃し立てられる。
そんなヴィオレッタにハンナは、『あなたは特別なんだから気にしないように』とか、『芸術の分からない人と一緒に居る必要はない』と繰り返す。
しだいに友達から離れていくようになったヴィオレッタ。

写真が売れ出すに従って、ハンナの注文はエスカレートするようになる。
『裸になれ』『男と戯れろ』

次第に成り行きを理解するようになるヴィオレッタは、母に反抗し罵声を浴びせるようになる。

それでも、母とのきずなは切れない。
母ハンナは繰り返す。
『あなたを愛している』『私にはあなたしか居ない』

ヴィオレッタの面倒を見てくれていたバアバが死んでしまう。
母と二人きりだ。
荒れた部屋で、廊下で寝る。
そして写真を撮る。
増々写真は売れるようになる。

ある日ハンナの元に裁判所から通告書が来る。
「児童虐待」の疑いがかかる。
児童ポルノとして学校の保護者などが訴えたのである。
このままでは施設に入るしか方法がない。

ソーシャルワーカーが仲介に入り、取りあえずはそのままの生活が続くが、20歳まではヴィオレッタの写真は撮れない。
食べ物にも困る生活になる。
そしてヴィオレッタは人のものを盗むようになる。

母と娘のクライシスの先駆けとも言われるこの映画は、ただ一途に『母が重い』『でも別れられない』『愛している』と呟く。
別れたくても離れられない。
固く結ばれた糸のように、解きほぐすことも難しい。

娘を利用し、芸術として取られた写真は、ただ美しく儚く退廃の雰囲気がマッチする、そんな作品である。

複雑な母親の背景には、もう一つの虐待が隠されていることが示唆されている。
重い内容の映画だが、とてつもなく美しい作品にも仕上がっている。

(J)

「ヴィオレッタ」