1998年 韓国映画

死にゆく人の心模様を、描いた映画は多くはない。
「八月のクリスマス」の主人公のユ・ジョンウォンは、30歳過ぎの独身男性である。
彼は余命わずかだ。

暑い夏の盛りに彼は一人の女性で出会う。
彼女の名前はキム・タリム。

ジョンウォンは、町の写真館で働く。
父親の後を継いだのだ。
その写真館に、駐車違反の取り締まりをしているタリムが、写真の件で来たのが出会いだ。
徐々に体が思うように動かなくなっていたジョンウォンは、愛想なく彼女を外で待たせた。

厳しい日差しの中を待つタリムに、差しだすアイスクリーム。
それ以来、タリムは写真館をたびたび訪れるようになる。

ジョンウォンは父親と二人暮らしだ。
結婚している妹は、彼の身体を心配している。
父親の作る料理はうまい。
今日も家族で食卓を囲む。

幼馴染のチョルグと飲む。
飲めないお酒を飲んで、酔って暴れて喚く。

ビデオを観たいという父親に、テレビの捜査を教える。
思うように操作できない父親の為に、メモにして書き残す。

小さい頃に母親を亡くしたジョンウォンは、いつか自分もこの世からいなくなると思っていた。
そしてその時間は刻々と迫る。

何も事情を知らないタリムは、無邪気に写真館に来る。
自分のことを話し、ジョンウォンのことも知りたがる。
二人でアイスクリームを食べ缶ビールを飲み、遊園地へ行く。

そしてジョンウォンは家で倒れて、病院へと運ばれる。

夏が過ぎ、秋になるが、写真館は閉まったままだ。
彼の何が起こったか彼女は知らない。
タリムはひたすら待つ。写真館が開くのを待つ。手紙を出す。

冬になるが、彼の姿はない。
タリムの純粋な無邪気さが、観る方の胸を打つのと同時に、ひた向きなその愛に応えようとしながらも、遂に返事も諦めるジョンウォンが物悲しく心に響く。

名作と言われる映画はいろいろある。
自分の思いを笑いの影に隠し、ただひた向きに思うその姿は、言い知れぬ深い愛と思いやりを感じさせる。
寂しく一人で死にゆく彼の姿や思いは、見る者の心に強烈にインパクトとして残る。
恋愛映画としての見どころもあるが、人間としても思いやりを描いた名作と呼んでいい一作だと思う。

(J)

「八月のクリスマス」