熊谷 一朗 (くまがい いちろう)


1967年、福島県いわき市生まれ。
精神科医。
1902年、筑波大学医学部を卒業し、同年東京医科歯科大学医学部付属病院精神神経科教室に入局。
いずみ病院(沖縄県うるま市)、松村総合病院(都稲城市)、メンタルクリニックおぎくぼ(東京都杉並区)、松村総合病院、舞子浜病院(ともに福島県いわき市)勤務などを経て、2011年12月、いわきたいら心療内科を開設し、現在同クリニック院長を務める。幼児から老年期に至るまで、幅広い世代への精神科臨床を続けている。
専攻は、精神病理学、精神分析学、児童思春期精神医学。
趣味は、飲むこと、潜ること、走り歩き(走ることとしたいのですが何せすぐに歩いてしまうもので)。
著書に『深淵から』『深淵へ』『スピリチュアルメンタルヘルス』。

東日本大震災、および福島第一原子力発電所の事故から四年半の歳月を経て書かれた書籍である。
本文の記載では、震災後に震災関連で亡くなった、いわば震災関連の死者数が、震災による直接の死者数を上回ってしまったという。
2014年以降、震災関連自殺者数は減少に転じるが、それでも一年の間に15万人の方たちが亡くなっている。

通常、 外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder (PTSD))は、半年ほどで徴候や症状が現れるというが、今回は、震災後4年たってから症状が出るようなこともあるという。
震災後一年から二年のあいだは、毎日が非日常だといっても過言ではなかったという。人に死や、生きる支え、故郷の喪失などの苦しみが、そこらあたりにあり、多くの喪失を抱え、不安の中で仮の暮らしをしていた。
逃げる、逃げないの迷いや葛藤、放射能への不安や恐怖、家族バラバラの生活生き残ったがゆえの苦悩や苦悶そして罪悪感。怒りや悲しみを症状として出す。肉親を失った圧倒的な喪失体験、繰り返される悪夢など、そして身体の不調だ。

『レジリエンス』とは、『非常にストレスフルな出来事を経験したり、困難な状況になっても精神的健康や社会的適応行動を維持する、あるいは、回復する心理的特性 』である。身体の平衡を保とうとする機能を『ホメオスタシス』というが、レジリエンスは、心の平衡を保とうとする『心のホメオスタシス』という考えもある。

少しづつ、福島なども復興が進んでいるという。
道路が通じて、人の行き来ができるようになり、ふたたび店が 開く。
著者は、いわき市で開業している精神科および心療内科医である。
日々の診療の中で、『心の復興・回復』に取り組んでいる一人の精神科医が、真摯に人々に向き合う、その記録でもある。

(J)

回復するちから 震災という逆境からのレジリエンス