ジャレド・ダイアモンド (Jaired Diamonnd)
1937年ボストン生まれ。
生理学者、進化生物学者、生物地理学者。
ハーバード大学、ケンブリッジ大学で博士号を取得。
カリフォルニア大学ロサンジェルス校教授。
アメリカ国家科学賞、タイラー賞、ピューリッツァー賞、コスモス国際賞など受賞多数。
長年にわたってニューギニアでフィールドワークを続けている。
著書に『人間はどこまでチンパンジーか』『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』『文明崩壊』などがある。

倉骨 彰  (くらほね あきら)
数理言語学博士。
専門は自動翻訳システムのR&D。
テキサス大学オースチン校大学院言語学研究科博士課程修了。
同校で数学的手法による自然言語の統語論と意味論を研究。
主要訳書に『マーフィーの法則ー現代アメリカの知性』『C言語入門(ASCII SOFTWARE SCIENSE Language)』『思考する機械コンピューター』ほか多数。

アメリカ国家科学賞、タイラー賞、ピューリッツァー賞、コスモス国際賞など、多くの受章の歴を持つこの作品は、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」にも選ばれている。
上下2巻の文庫本で、かなりのページ数だ。

タイトルにもあるように、生物学や文化人類学など、多岐にわたる内容は、知の巨匠と言われるダイアモンド博士の博学ぶりそのものかもしれない。
ごく当たり前のことを、ごく当たり前に。
でも、その当たり前が、本当に難しいことだと、実感させられる。
長い歳月の末に導かれ出すものであることを、本書は語っているように思う。

人類社会の歴史は世界のさまざまな場所でそれぞれに異なった発展をとげてきた。
世界には氷河期が終わってからの一万三〇〇〇年間に、文字を持ち、金属製の道具を使い、産業を発達させた社会が生まれた地域がある。
文字を持たない農耕社会しか登場しなかった地域もある。また、石器を使って狩猟採取生活を送る社会がずっとつづいていた地域もある。
こうした歴史的な不均衡は、現代の世界にも長い影を投げかけている。
しれは、金属器と文字を持つ社会が、金属器も文字も持たない社会を征服し、あるいは絶滅させてしまったためである。
こうした地域間の差異は人類史を形作る根本的な事実であるが、なぜそのような差異が生まれたのかという理由については、いまだに明らかになっておらず、議論がつづけられている。
私がこの謎を突きつけられたのは、二十五年前のある素朴な個人的体験だった。
本文 抜粋

二十五年前の素朴な個人的体験とは、1972年7月、熱帯のニューギニアで生物学者として鳥類の進化について研究していた博士に、この地方の優れた政治家である「ヤリ」という名の人と、二人が、一緒に一時間ほど歩いた会話から始まる。
ヤリはニューギニアから一歩も外に出たことがなく、学校も高校までしか行ってなかったが、好奇心のかたまりでいろいろな質問を投げかけてきた。
その中に、「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるほどのものがほとんどない。それはなぜだろうか?」と問いかけた。
このヤリの質問は、更新世以降の人類史、そして、現代の人類社会の核心をつく問いでもあったし、現代の地域格差への問いでもあった。
本書は、ヤリのこの質問に対する、博士の答えだという。

本書に記されている答えは、人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人々が生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからだという。
そして、重要な違いとして、4つの要因があげられている。
第1に、栽培化や家畜化の候補となりうる動植物の分布状況が、大陸ごとによって異なっていた。
栽培化や家畜化をおこなうには、適性のある野生種が存在しなければならなかった。
そして、食料生産の余剰が生まれた時、人口が増え、人口の稠密化が専門職を生みだしたという。

第2には、伝播や拡散の速度である。

第3にはその伝播に影響を与える要因があげられている。
大陸では、東西への伝播は早く行なわれる。
比較的、気候が似ており、栽培化や家畜化がうまくいくことが多くあったからだそうだ。

第4には、それぞれの大陸の大きさや総人口の違いを上げている。
面積の大きな大陸ではや人口の多い大陸では、何かを発明する人間の数が相対的に多く、利用可能な技術の多い。

非常に簡単な説明だが、上下2冊に書かれていることは、要約するとこの4つに絞られるかと思う。

銃を持つ人と銃を持たなかった人。
また、新天地を発見し、その地にもたらされたもののなかには、病原菌もあったという。
病原菌への抵抗力のない人々は、その病原菌におかされて、多くの命が失われた。
そして、石器から鉄への移行など、現在の歴史を紐解く、優れた作品でもある。

読む進むうちに、「人間とは何か」という問いかけが生まれてくる。
チンパンジーと人間との遺伝子は、98.4%まで同じだという。
動物と人間を隔てるモノは何か。
思わず、考えてしまうテーマでもあった。

(J)

 

「銃・病原菌・鉄」1万3000年にわたる人類史の謎 GUNS,GERMS,AND STEEL