永井 路子 (ながい みちこ)
1925(大正14)年、東京生まれ。
1925年東京女子大学国語専攻部卒業。
小学館勤務を経て文筆業に入る。
’64年『炎環』で、第52回直木賞受賞。
’57年、『氷輪』で、女流文学賞。
’63年、『雲と風と』で、吉川英治文学賞受賞。
主な著書に『北条政子』『王者の妻』『日本夫婦げんか考』『朱なる十字架』『乱紋』などがある。

長い間、京の権力の前に圧迫され続けてきた東国に、源頼朝の挙兵によって、武士の世界が始まる。
一つの灯は、瞬くうちに関東の野をおおい、鎌倉幕府が成立した。
その鎌倉幕府成立にともなって、繰り広げられる死に物狂いともいえる情熱と野望は、鎌倉武士たちの生きざまを激しく燃え上がらせる。

「悪禅師」「黒雪賦」「いもうと」「覇樹」の四篇からなる作品で、それぞれ、鎌倉幕府が成立する時に関わった人々の心模様などを描き出す。

「悪禅師」は、源頼朝の異母兄弟で京の醍醐寺に預けられて、若くして得度し、全成(ぜんじょう)と名乗っていた28歳の青年僧が、頼朝旗揚げを聞いて、武州鷺沼の陣屋に駆け付けるところから始まる。
母親の常盤に似ていると言われる全成は兄弟の元で、その武勲を立てようと来たのだった。
頼朝は全成とは似ておらず、また、亡き父の俤の感じられない人だった。
目の前の兄弟は、どちらかといえば京で育った彼よりも公家風だ。
生まれついての総大将のようにゆったりと構えていた。
頼朝の妻、政子の妹の保子と結婚し、頼朝の近くで過ごすことになる全成は、実の弟四郎義経が、咎を受け殺されていくのもまじかで見ることになる。

「黒雪賦」は、頼朝に引き立てられ、力を持つようになった梶原景時の話で、もともとは敵方だった景時だが、石橋山の合戦の折に、頼朝を助けたことがきっかけでひいきにされて、幕府で引き立てられるようになっていく経緯と、景時の心模様が描かれている。

「いもうと」は、全成の妻となった保子の物語で、結婚のち、全成と話しあいの後、政子の男の子の乳母となるが、夫は謀反の罪で島流し。
後の殺されてしまうが、保子は手塩にかけて育てた千万(後の実朝)の将来に望みを託すことになる。
北条一門が時の権力を手に入れていく過程で、政子・保子姉妹は、それぞれの生きざまを探らざるを得ないようになっていく。

「覇樹」は、北条時政・北条四郎親子の話。
源氏の血筋に結婚という歴史的な方略で参加し、やがては鎌倉幕府という天下取り人になっていった北条の二人の男たちは、冷静に、かつ慎重に京の権力を排除しながら、東国統一を果たしていく。

それぞれの命が、一人一人のひしめきが、炎のように循環し、燃えていく。
歴史小説だが、人の心の変わらなさを感じるとともに、その描き方の巧みさに唸るような思いがした。

(J)

 

「炎環」