原 武史 Hara Takeshi
1962(昭和37)年、東京都生れ。
早稲田大学政治経済学部卒業。
国立国会図書館、日本経済新聞社勤務を経て東京大学大学院博士課程中退。
現在、明治学院大学教授、専攻は日本政治思想史。
著書に『昭和天皇』(司馬遼太郎賞受賞)『滝山コミューン一九七四』(講談社ノンフィクション賞受賞)『「民都」大阪対「帝都」東京』(サントリー学芸賞受賞)『大正天皇』(毎日出版文化賞受賞)『鉄道ひとつばなし』『皇居前広場』『〈出雲〉という思想』『視覚化された帝国』など。

鉄道は歴史を乗せているのです。
国家の歴史から、個人の小さな淡い歴史まで。
本文より

小さい頃から鉄道が大好きで、鉄道の専門家ではない筆者が、従来の鉄道マニア等の出版本とは、一味違う「鉄学」を展開する。
本職は大学の教員で、天皇や皇室を中心とした日本の政治思想の研究家である。
そして、その筆者の鉄道を通じて見えてくる日本の近代歴史や、乗り合わせた人びとや鉄道の歴史と共に繰り広げられた人びとの生活模様を書き連ねている。

鉄道紀行文学であり、強い意志を飄々と語った『安房列車』の内田百閒のこと。
その内田百閒を尊敬し、跡継ぎともいうべき阿川弘之は、国外に目を向け、様々な鉄道に乗る。
そして、今のマニアの原型でもあり、国内のさまざまな路線を乗った宮脇俊三は、その時々の失敗も楽しむ。
日本を代表する3人の鉄学者を、まずは紹介する。

また、東京の路面電車は、皇居を中心として発展した。
その路面電車は、時代の流れに押されるようにして地下鉄へと切り替わる。
路面電車からは、皇居が見える。
皇居を見て「天皇」を思う。
それが、鉄道が地下にもぐることにより、人々の眼から皇居は目の前から消えた。
それと共に、『天皇』や『皇族』は、人々の目に実存的な意味を失っていったと筆者は言う。

そして、西の「阪急」と東の「東急」。
それぞれの代表的人物である「阪急」の小林一三と「東急」の五島慶太の思想や偉業を書く。
小林は関西圏であることにもよるだろうが、国家権力とは結びつかず、自身の独創から発展する。
かたや、五島は国の中枢である東京で、国家と緊密なつながりの中で、発展を遂げたらしい。
そして、その違いが結果的が、この東西を代表する鉄道の歴史や発展をどういう風に変えていったかを書く。

などなど、確かに一風、個性的な鉄道論が展開される。
読んでいて興味深く面白い。
普段の生活からは、考えにくいほどの歴史を鉄道の発展と共に歩むことになり、現代のこの風景が、歴史と共にあることを納得する。

日本近代史といっても、鉄道の歴史はわずか140年ほどだそうだ。
その発展と都市の形成との密な関わりの一片を読んだことは、なにかを理解することのある種の面白さを心に覚えさせたようだ。

(J)

「「鉄学」概論」 車窓から眺める日本近現代史