伊坂幸太郎 Isaka kotaro
1971(昭和46)年千葉県生まれ。
’95(平成7)年東北大学法学部卒業。
2000年『オーディポンの祈り』で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。
’04『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞受賞。
’08年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞と山本周五郎賞を受賞。
酒脱なユーモアと緻密な構成で読む者を唸らせ、小説に革新を起こし続ける書き手として、確固たる地位を築いている。
他の作品に『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『砂漠』『首折り男のための協奏曲』『ジャイロスコープ』『マリアビートル』『火星に住むつもりかい?』『キャプテンサンダーボルト』などがある。

若くして国民から選ばれて、これからという金田貞義首相が仙台で暗殺された。
仙台は、金田首相の出身地でもあり、お礼の意味も込めてパレードを繰り広げていた。
そのパレードの真っ最中に、上空から、ラジコンに仕掛けられた爆弾で殺害された。
共に車に乗っていた婦人も即死だった。
多くの報道陣が騒ぐ中、犯人は青柳雅晴という名の青年であると警察から発表される。
だが、青柳雅晴は犯人ではなかった。
濡れ衣だった。
巨大な陰謀の渦巻くこの殺人事件を巡って、後に様々なことがささやかれるようになる。

青柳は宅配ドライバーの仕事としていたが、少し前から仕事場にさまざまな嫌がらせが続き、やめざるを得なくなった。
彼は、宅配ドライバーの仕事をしていた時、時のアイドルの凜香を助けたことがあり、イケメンの青柳は、そのときかなりマスコミで騒がれた。
マスコミに追いかけられ、顔はよく知られることとなる。
だが、今回は、身に覚えのない殺人容疑だ。
弁明しようにも、警察は何も聞こうともしない。

『逃げろ!逃げろ!』彼の中に様々な人の言葉が響く。
父の声がする、『息子は犯人ではない!』。
元恋人の樋口晴子も、『月日が経っても変わらぬ彼がいる』と、彼の人柄を信じ続ける。
彼を知る多くの人は、動揺しながらも青柳が犯人であることを信じようとはしなかった。

仙台の大学の友人である森田森吾と久しぶりに出会うが、彼も青柳を陥れようとする組織らしきものから言われて動いていた。
『家族の為だ』という森田の口から、にわかに信じがたいことが語られる。
『お前は、暗殺者として犯人に仕立てられている。逃げろ』『信じていいと思う者を疑え』と。
彼は、わけもわからず、逃げまどう。
誰を信じ、どうしたらいいのかさえも皆目わからない。
孤独にさいなまれながらも、青柳は必死で逃げる。
仙台市内を必死で逃げる。

“ある日目が覚めたら、自分が殺人犯にされていた。”
そんなフィクションを本で体験する。
“そんな馬鹿な!”と思うながらも、ずるずると本の中に引きずり込まれていく。
どう言いわけしても駄目な世界で、ただひたすら逃げる。
彼を助ける協力者は、連続殺人犯〈キルオ〉達だ。
セキュリティポッドで監視された仙台市内をただひたすら逃げる青柳を、世間が背を向けるような人々が協力者として助ける。
一度は青柳を裏切りながらも、どこかで彼の人柄を信じて助ける仲間たちのささやかな支えの果てにある未来は、どんなものだろうか。

はらはらどきどきのストーリー展開は、読む者を飽きさせない。
最後の数ページまでたっぷりと楽しんだ感じだった。
“無事に逃げて”と、心の祈る、そんな一冊だった。

(J)

 

「ゴールデンスランバー」