古川 日出男 ふるかわ・ひでお
1966年福島県生まれ。
98年に『13』でデビューする。
2002年『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞。
06年に『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞する。

恋人が、「なかなかキュートな足跡を残す妖精たち」を教えてくれて、ぼくは妖精を映像で捉えようとする。
吉祥寺の東急の屋上にあるカフェで聞いた話だが、妖精にもそれなりの質量があるという。
夏の海岸で砂遊びをするように、地面にさらさらの砂で小さな山を作り、その表面に上がり段をこしらえておくと、妖精はその階段に足跡を残すという。

マンションの部屋は一階、南向きで、小さな庭がある。
週末に、ガーデニング用のさらさらの砂を買い、エジプトのピラミッドにも似た砂山をつくる。
まずは、プランAを実行する。
一日め、収獲なし。
二日め、同様に収獲ゼロ。
三日め、勤めを終えて帰宅し庭に出てみて、「うおお!」と唸る。
砂山の階段の一面には、はっきり、キュートな足跡が残されていた。
階段を昇る、小指よりもちっちゃな、十九個の足跡だ。

次は、プランBの実行である。
庭の砂山に撮影機材をセットする。
録画ボタンを押す。
妖精の存在を証明しようとするならば、このビデオに写らなくては。
真剣に期待して、新入社の若い異性の後輩たちの晩餐的誘惑もパスして自宅に直行する。

どこかに「やすらぎ」を感じさせる不思議な文体は、読み進むうちに、何ともいえない不思議な感じに囲まれる。
気取らない文章は、どこか不思議だが、何かを緩ませるようだ。

短編を集めた「gift」は、出かける時にふと、カバンに入れるようなそんなソフトタッチなものだ。
心のが自由に羽ばたくとき、こんな不思議な世界との出会いも、また、ステキかもしれない。
そんな思いを抱かせる作品だ。

(J)

 

「gift」