桐野 夏生 きりの なつお
1951年、金沢生まれ。
成蹊大学法学部卒業。
93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。
99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、『ナニカアル』で10年、11年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。
1998年に日本推理作家協会賞を受賞した『OUT』で、エドガー賞(Mystery Writers of America主催)の候補となった。
『緑の毒』『ハピネス』『だから荒野』など著書多数。

1994年8月
「現代の神隠しか 深まる謎 有香ちゃん失踪事件」
8月11日朝、千歳市支笏湖超泉郷で、石山洋平さん宅に泊まりがけで訪れていた森脇道弘・カスミ夫妻の幼稚園児の長女有香ちゃんが、家を出たまま帰らないという事件が起きた。
現場は標高500メートルの別荘地で、5歳の幼児では遠くに行けないと見て、捜索隊は犬5匹を投入して2キロ以内の山林を捜索し、付近の別荘などの聞き込みもしたが見つからず、交通事故の跡もなく、事件に巻き込まれた様子もなかった。
子どもの行方が分からぬままに、この事件は捜査は打ち切られた。

カスミの故郷は北海道だった。
高校を卒業後、これからの生活に対する大きな不安とやったという喜びを抱きながら、東京に家出をし暮らした。
東京でデザインの学校に通い、その後製版業を営む森脇の所で働き、会社になくてはならない存在となり、森脇と結婚した。
そして、有香と梨紗の二人の子供にも恵まれた。
が、生活にくたびれていった。

カスミは、森脇の会社にいつも仕事を回してくれて、道弘の友人でもある石川と、数年前から関係があった。
石川は大学の同級生であった典子と結婚し、子どもが2人いた。
カスミには、石川との逢瀬が、心になぐさめとなっていった。
石川は、カスミの故郷である北海道に二人のために別荘を購入したが、その別荘で有香が失踪した。

有香が見つからないまま、人々の関心は薄れ、捜索隊の人数も減る。
別荘に一人残ったカスミだったが、やがて東京に戻ることになる。
石川とは連絡も取らないまま、やがて二人はそれぞれの心にそれぞれの罪悪感を持ったまま別れることになる。
そして、石川は事業を独立させるが失敗し、多額の借金をしょい込むこととなる。
カスミはその後も娘を探し続けて、北海道に来ることになる。

4年後、皆が有香のことを諦めて、それぞれの生活を歩み始める。
そんなとき、内海という元刑事から、有香を探す手伝いがしたいと申し出があった。
野心家の元刑事・内海は、癌で余命半年と宣告されていた。
その内海がカスミと共に、真相を求めて北海道の事件現場や関係者を訪ね歩く。
真相の夢を見ながら、二人は旅する。

真実は何処にあるのか。
それぞれの人の心の中にある、それぞれの思い。
苦しみもがきながらも、人それぞれのゴールを目指す。
内海の死は、カスミの心にある思いを抱かせる。
そして、カスミの旅も終わることになる。

結末は、決してハッピーエンドではないし、カタルシスもない。
それぞれが自分なりに、心に添った結論を出す。
諦めるのではなく、心のさまよいを終わらせるこの結論に、ある清々しい思いを覚える。

(J)

 

 

 

 

 

「柔らかな頬」