1961年横浜生まれ。
東京外国語大学モンゴル語学科卒業。
テレビ番組制作会社勤務を経て、ノンフィクション作家。
『にせニッポン探訪記』『素晴らしきラジオ体操』『ご先祖様はどちら様』で、第10回小林秀雄賞を受賞。

エラーの伝統
あらためて思うに、野球というのは実に危険なスポーツである。
鉛でも入っているかのような硬い球が、目に留まらぬ速さで飛んでくる。
カキーンという音が聞こえると、すぐ目前。
球に当たればケガどころか命のかかわることになりかねず、となると、球が来たら逃げるというのが自然の動きで、取りにいったりするのは本来、不自然なことなのかもしれない。
本文 抜粋

開成高等学校(学校法人 開成学園)は、毎年200人近くが東京大学に合格するという日本1の進学校らしい。
東京大学や、有名進学校のための学校というイメージがあるようだが、「開成の教育の目的は、有名大学への進学率を高めることではありません」とのこと。
スポーツではその名はほとんど聞かれない開成高校の硬式野球部が、平成17年の全国高等学校野球選手権大会の東東京予選で、
ベスト16まで勝ち進んだ。
なんで開成が?と驚いた作者が、開成高校を訪れて、部員たちや監督に様々な事をインタビュしたその記録のような本。

とにかく読んでて面白い。
部員や監督の発想が面白い。

もしかして強いのではないか。
これこそ打撃で圧倒する開成野球ではないかと感心していると、青木監督がグランドに向かって叫んだ。
「当たり前当たり前。
俺たちは異常なことをしようとしているんだから1点で喜ぶな!」するとなぜか攻撃はそこで途切れ、続く2人はフライを上げてあっさり凡退してしまった。
もうひと仕事終えたかのように。
開成のピッチャーは3年生の大木巧人君だった。
かれはシンガポール日本人学校から開成高校に入学。
2年生まで外野を守っていたが、自ら希望してピッチャーになったらしく、なぜ希望したのかとたずねると、こう答えていた。
「僕は日常生活でも引きずるタイプなんです」
ーだから?私は問い返した。
些細な出来事もいつまでも悩んでしまう性格とのことだが、それと野球とはどういう関係があるのだろう。
「だから野球が好きなんです。
野球は攻撃と守備がはっきり分かれているじゃないですか。
僕はサッカーのように、攻撃と守備が目まぐるしく変わる中でボールを追いかけるのは苦手なんです。
もうずーと、引きずっちゃいますからね。
僕は切り替えというものが上手くないものですから」-そのこととピッチャーはどういう関係があるんですか?
「守備になった時、ピッチャーはやることがひとつじゃないですか」
本文 抜粋

「実は、学校自体がのんびりとした雰囲気なんです」保健体育の先生でもある青木監督が打ち明けた。
野球部員たちの特徴は開成自体の特徴らしいのである。
超進学校ではあるが、開成には能力別クラス編成もなければ、取り立てて大学受験に備えた体制があるわけでもない。
授業も「生徒の自主性を尊重しながら」「基礎学力を養成」することに主眼が置かれている。
・・・・・・・
「学校としてはおおらかでいいと思うんです。
でも、こと勝負事にそれを引きずられると困ってしまうわけなんです。」
と青木監督。
そういえば、外野を守る八木翔太朗君もかなり泰然としていた。
なぜ外野なのかとたずねると、こう答えたりする。
「外野は涼しいんです」ー涼しい?
「内野は緊張するじゃないですか。でも、外野って全体が客観的に見えるんです。
気持ちに余裕があって、それで涼しく感じるんですかね」
本文 抜粋

弱くて守備もうまくない。
そんな野球チームに監督は叫ぶ。
〝とにかく打て!打って点差を広げろ!”
〝ストライクを投げないのは、相手に対して礼儀が悪いからストライクを投げろ!”

開成高校には週1回の放課後しかグランドで練習が出来ない。
甲子園に出てくる野球有名校とは、練習量でもかなりの差がある。
その中で、彼ら部員は、思考しながら練習する。

ひょっとしたら、こんな野球がこれからの野球を担うのかも!!!
とにかく、彼らは、今日も野球をやる。
甲子園?を目指して野球をやる。

(J)

「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー