V・S・ラマチャンドラン
サンドラ・ブレイクスリーV・S・ラマチャンドラン V.S.Ramachandran
カリフォルニア大学サンディエゴ校の脳認知センター教授、所長、同大学心理学部神経科学科教授。
視覚や幻肢の研究で知られ、アメリカではその研究内容が新聞やテレビで報道され、大きな反響を呼んだ。

サンドラ・ブレイクスリー Sandra Blakeslee
「ニューヨーク・タイムズ」のサイエンスライターを経て現在「サイエンス・タイムズ」のフリーランス記者。
神経科学を中心とする記事を書いている。

世界が朽ち果てるとすれば、それは驚異がなくなったときではなく、驚異を感じる心がなくなったときだろう。
――J・B・S・ホールデン

19世紀および20世紀初期の偉大な神経学者や精神科医たちは記述の達人で、彼らが書いた病歴記録のなかには、小説に匹敵するほど細部の描写にすぐれたものがある。
神経学者でもあり小説家でもあったサイラス・ワイアー・ミッチェルは、南北戦争で負傷した兵士に見られた幻肢(彼が最初に使った名称で言えば「感覚の幽霊」)について忘れがたい記述をした。
またフランスの偉大な神経学者ジョゼフ・バビンスキーは、さらに驚くべき症候群(シンドローム)、病態失認について書いた。
病態失認の患者は、自分の半身が麻痺していることがわからず、奇怪なことに、しばしば麻痺した部位をほかの人のものだと思いこむ(自分の左半分を「兄のものです」とか「あなたの体です」などと言う)。

本文 抜粋

麻痺した手を刺激しても、本来なら活動する脳の領域は何も活動しないのだが、サルの顔面のあるところを刺激すると麻痺した手に対応しているニューロンが活発に発火した。
手と顔にどんな関係があるのだろうか。

大脳皮質の表面にぶらさがった変形した小人―いわゆるペンフィールドのホムンクルズ―という神経の地図がある。
この地図は、奇妙な小人で手が大きい。
手にあたる部分のホムンクルズの顔の部分を触ると、ニューロンが動くという事は、この神経の地図を変える(再マッピング)ことにあたるという。

私はトムの頬を綿棒でこすり、「どうですか」とたずねた。
「頬を触れられているのを感じます」
「ほかには?」
「おかしいことですが、なくなった親指にも、つまり幻の親指にも触れられている感じがします」
私は綿棒を上唇に移動した。
「ここはどうですか?」
「人差し指を触れられている感じがします。それと上唇を」
「本当ですか?確かに?」
「本当です。両方とも感じます」
「では、これはどうですか?」
私はトムの下顎をこすった。
「なくなった小指です」ほどなくトムの幻の手の地図が、彼の顔の上に完成した。

本文 抜粋

幻肢を神経学的に解明する試みは興味深く、特に、無いはずの体の部分に痛みを感じるメカニズムを分かりやすく書いている。
鏡を使って痛みを取り除くやり方で、幻肢の痛みをとった筆者が、体と痛みと心の関係を解く。

ゲシュタルト心理学理論でも説明されている錯視理論を使い、人は物事を理解するように脳は働く。
その理解を妨げるように思われる情報(感覚的・認知的な情報)は、無視されて意識されない。
そうすることによって混乱を避けるように出来ているようだ。

まだ解明されていない脳やニューロンの働きは、これから増々明らかになるだろう。
そうしたら、今まで常識と思われていたようなことにも新しい理論が繰り広げられていくのだろう。

この本に書かれている幻肢・カプグラ・シンドローム(人の誤認)や、半側空間無視の人等、人間の認知の不思議さに惹かれながら読んだ。

(J)

「脳のなかの幽霊」 PHANTOMS IN BRAIN