hon20150116生島 治郎  いくしま じろう
1932年 上海生まれ。
早稲田大学文学部卒。
61年よりミステリー雑誌の編集長を経て、64年『傷痕の街』でデビュー。
現在の日本のハードボイルド小説の基礎を築いた。
67年『追いつめる』で直木賞受賞。
『黄土の奔流』『世紀末の殺人』『片翼だけの天使』など多数。

ハードボイルド小説の主人公の男性は、ただひたすら恰好が良い。

『黄土の奔流』の主人公の名前は 紅 真吾 である。
父親の仕事の都合で高校を卒業後、上海に渡った真吾は、父親が亡くなった跡にその仕事を継ぐが、日本からの大手資本が上海に来ると、小さな商いの『紅貿易公司(コンス)』は破産に追い込まれた。

家も財産も何もかも失くした真吾には、飯桶(ウェイドン)という、真吾を黄包車(ワンパオツオ)に乗せて走る以外に興味のない使用人のみが残った。
『紅商事』をどんなことがあっても、再び再建すると言う固い決心をする真吾だったが、今の上海では不可能に近いことでもあった。

最後の晩餐にと飯桶と『紅楼夢』という店で食事をとる二人の前に、キャッシーというとても美しいが残忍で人を騙して身ぐるみ取る女性のカモになりかけた沢井和彦に出会う。
沢井は『河村商会上海支店長』であり、真吾を破産に追いやった大手の日本商事の人物だった。
そして、沢井を助けた真吾は、その沢井から仕事の話を持ちかけられる。

その当時、上海奥地では買い付けに行った人々が戻ってこないという事がたびたび起こっていた。
土匪という盗賊が、あちこちでモノを奪い、人を殺していた。
以前よりも軍の統制が弱り、無法地帯になりつつあった。
日本人であることが、ある種の特権である時代は過ぎ去ろうとしていた。

沢井から持ち掛けられた仕事の話しとは、その奥地の重慶まで、歯ブラシの毛になる豚の毛を買い付けに行く話しである。
法外な報酬は提示されるが、命がある保証はない。

その仕事を引き受けた真吾は、命知らずの日本人を集める。
上海で一旗揚げようとして失敗し、今や人々からも相手にされないような連中ばかりである。
日本に帰ろうにもお金がない。

一つの舟の中で閉鎖的な生活を送るだけの図太い神経の持ち主で、中国生活への慣れがあり、拳銃の腕のいい順番に人を選ぶ。
候補者の中から最終的に8人選ぶ。

真吾と主に沢田を助けた葉村は、顔の半分に火傷があるが、秀麗な顔立ちをしていた。
武器の扱いもうまいが何を考えているのかよく解らない。
森川は真吾が一番気に入った人物だ。
北京語の正規の講習を受けている。
真壁は髭だらけの中国浪人。
体格はずば抜けているが、日本男児のプライドが今も残っており、それが命取りにならないかと不安が残る。
16歳の少年の久我。
長谷川も居る。
そして飯桶。
沢田から、豚の毛の判定にと仲間に加わった黒柳老人。
豚毛の鑑定にと沢田から紹介された女と酒以外に興味のない。
そして、今回の難しい川を操作し、無事に船の操縦をするための船長である。

揚子江を起点に船で遡る今回の旅は2400キロもに渡る。
自分以外は誰も信用できない。

一癖も二癖もある連中の中で、様々な事件起こる。

そして、無事に重慶に着いたとしても、その地には土匪が待ち受けているであろう。

とにかく、真吾はかっこいい。拳銃の腕は仲間で一番。
英語・日本語・中国語と語学も自由に操る。
頭もよく、機転もきく。

長い長い旅の間に、友情も生まれ、恋も生まれるが、果たして真吾は無事に上海に戻れるのだろうか。

安心しながら、ハラハラできる。
そんな小説である。
次の展開が楽しみで心が先に急ぐ、そんな小説である。

(J)

「黄土の奔流」 THE DANGEROUS STREAM