hon20150325加納 朋子 Kano Tomoko

1966年 福岡県生まれ。
92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞し、作家デビュー。
85年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編及び連作短編集部門)を受賞。
著書に『ささら さや』「モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』など。

「佐々良」の駅に降り立ったわたしは、その田舎の駅で泣きたいような気分だった。
大きくため息をつき重たい荷物を持ち上げる。
黒っぽくて安っぽい、ナイロンの旅行カバンには、色んなものが詰め込んであった。
欲しくて欲しくてさんざねだって買ってもらったオルゴールに、お気に入りの目覚まし時計。
中一の時に読書感想文で表彰されたときの表彰状。
大好きな漫画本が何冊か。
お小遣いを貯めて買ったガラスでできたリンゴ。
好きな音楽のテープ。
アルバムを数冊。

まさか自分の身にこんな運命が待ち受けているなんて、思ってもいなかった。
「……お父さんのバカ」
「お母さんのバカ」

わたしこと雨宮照代は、家にお金が無くなって会ったこともない遠い親戚の家に夜逃げしてきた。
誰が見ても冴えない中年オヤジの父親は、最新型の車が大好きで、数年ごとに新車に買い替えていた。

『テルちゃんのお母さん、きれいね。
女優さんみたい』と言われることが誇らしかったが、そんな母親は、洋服にバッグ、化粧品に友達同士のランチ。
浪費家の両親だ。

わたしは笑えるくらい父親に似ていて、小柄でやせっぽっち。
十五歳という年齢よりはもっと幼く見える。

借りていたお金は、自転車操業でしのいでいた。
念願の高校に受かったのは良かったのだが、はっと気がつくと、必用なお金は高校に振り込まれていなかった。
そして金融業者に追われるようになり、遂に家族はバラバラになったのだ。

『佐々良』の町に住む鈴木久代さんの所に行くようにと、
言われてきたこの町で、照代は様々な出来事に出会う。

元は先生で、「ツンケンした鶏ガラみたいないけ好かないばあさん」であり、「なんだかお話に出てくる意地悪な魔女みたいな感じ」
と言われる久代さん。
未来を予言する高校生のエラ子や、壊れた時計を直したり、ボロボロのゾンビ自転車を綺麗にしてくれた松ちゃん。
誰からも好かれる綺麗なサヤさんとサヤさんの子どものユウスケ君。
エリカさんとダイヤ君。
いつもサヤさんの家に集まるお夏さんと珠ちゃん。
今までのぜいたくな暮らしはもうどこにもない。
久代さんの作る野草のような料理と、変な匂いのする家。
何処にもいくところはない。
冷たく言い放つ久代さんの言葉に心は荒れる。

照代は暮らすためにバイトをする。
嫌いな子どもたちの面倒も見る。
いつか両親が迎えに来てくれることを夢みながら、必死に頑張る。

照代の携帯に届く謎めいたメールや、久代さんの家に出る幽霊が語ろうとしていることは何?

『お父さんも嫌い、お母さんも大嫌い。
子どもも嫌い。』
『そう友だちなんかいらない!』

気持ちが苛立ち、泣くに泣けない私こと雨宮照代は、そんな厳しい環境の中で、人に触れていく。
人の心に触れていく。

『ありがとう』と言い、『ごめんさない』と言う。
『思いっきり』泣く。
贅沢な時には知ることもなかった人々の思いやりを、照代は受け取る。

苛立つ心と自分を苛む心と、誰もがどこかで感じたことのあるようなそんな心の襞を、分かりやすい言葉で綴る。
ページを捲るのももどかしい位夢中に読める、そんな本だった。

(J)

「てるてるあした」