hon20150722ジョージ・オーウェル George orwell

1903年、英国領インドのベンガルに生まれる。
文学のみならず、二十世紀の思想、政治に多大なる影響を与えた小説家。
名門パブリック・スクールであるイートン校で学び、その後、数年間ビルマの警察に勤務。
やがて職を辞し帰国すると、数年間の放浪を経て、作家となった。
主な著作に長編小説『動物農場』やスペイン内戦に参加した体験を綴ったルポルタージュ『カタロニア讃歌』などがある。
1950年没。

玄関ホールは茹キャベツとぼろぼろになった古マットの匂いがした。
突き当たりの壁に屋内に展示するには大き過ぎる色刷りのポスターが画鋲で留めてある。
描かれているのは横幅が一メートル以上もあろうかという巨大な顔だけ。
四五歳くらいの男の顔で、豊かな黒い口髭をたくわえ、いかついが整った目鼻立ちをしている。
ウィンストンは階段に向かった。
エレベーターを使おうとしても無駄なこと。
万事これ以上ないほど順調なときでさえ、まともに動くことはめったになかったし、ましてや今は昼間の電力供給が断たれている。
〈憎悪週間〉を前にした節約キャンペーンの一環だった。
部屋は七階。
三十九歳になり、右足首の上に静脈瘤性の潰瘍ができているウィンストンは、途中で休み休み、ゆっくり階段を登った。
階段の踊り場では、エレベーターの向かいの壁から巨大な顔のポスターが見つめている。
こちらがどう動いてもずっと目が追いかけてくるように描かれた絵の一つだった。
絵の下には〝ビッグ・ブラザーがあなたを見ている”というキャプションがついていた。

本文 抜粋

<ビッグ・ブラザー>が世の中を治め支配する1984年で、ウィンストン・スミスは暮らす。
真理省記録局に勤務し、仕事は歴史の改竄だ。
次々と過去は書き換えられていく。
完璧な屈従を強いる体制にウィンストンは不満を抱いていた。
しかし、誰にもそのことを悟られてはいけない。

戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり

親子・友人は、互いを見張るように指導されており、誰も信用できない。
仕事仲間といっても私語はほとんどない。
そんな世界に変革をもたらそうとした者は、次々と消えていく。
<憎悪週間>では、憎しみをこめて変革者だと言われているゴールドスタインの顔に向けられる。
冷静な判断力も気づかれてはいけない。
そうでないと自分が消されてしまう。

父親は消された。
一人居た妹と母親も、いつも間にか消えていた。
かすかな記憶の中で、お腹が空き母親に食べ物をねだる自分が居た。
妹の食べ物を取り上げた記憶が残る。
妹は飢えで死にかけていたこともかすかに覚えている。

仕事は嫌いではなかった。
標準英語であったオールドスピークはニュースピークへと変えられていく。
思想を持たないように自分で考えないようにニュースピークへと変えられていく。
ウィンストンは自分に届く文章を次々と書き換えていく。
自分の部屋も仕事場もいつもテレスクリーンに映る。
いつもテレスクリーンが監視する。

ある時、奔放な美女ジュリアからの誘いに乗ったウィンストンは、いつしか彼女と恋に落ちる。
恋愛は認められない。
生殖は子供を産むためだけに認められる。
危険な恋と知りながらも、二人は出会いを重ねる。
そしてそのことがきっかけになり、反政府地下活動に興味を覚えて、しだいに惹かれていくようになる。

裏切りは死を意味した。
自由はなく、言われることを鵜のみする。
子どもは教育で様々な考えを植えつけられて、親子・兄弟はお互いを監視する。

20世紀世界文学の傑作と言われる『1984年』は、全体主義の世界を描く。
『こんな世界はお話の中だけ』と信じられたら、のんびりと幸せかもと思う。
でも現実は、決してそうは簡単に思えない。
そんな自分が其処に居た。

(J)

「一九八四年」 Nineteen Eighty-Four