hon20150729湊 かなえ Minato Kanae

1973(昭和48)年、広島県生まれ。
2007(平成19)年、「聖職者」で小説推理新人賞受賞。
翌年、同作を収録する『告白』が「週刊文春ミステリーベスト10」で国内部門第1位に選出され、’09年には本屋大賞を受賞した。
’12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
他の著書に『少女』『贖罪』『Nのために『夜行観覧者』『往復書簡』『花の鎖』『境遇』『サファイヤ』『白ゆき姫殺人事件』などがある。

女子高校生が自宅の庭で倒れているのが発見された。
母親は「愛能う限り、大切に育てた娘がこんなことになるなんて」と言葉を詰まらせて語る。
女子生徒の担任教師は「まじめでクラスメイトからの信頼も厚く、悩んでいる様子も特に見られなかった」と語る。これは事故か、自殺か、殺人か。

「母性」で、娘のすべてを愛そうとした母の思いと、その母親を庇い、ひたすら愛を求めた娘の気持ちはすれ違う。
母親の記憶することと、娘の記憶も微妙にすれ違う。
語られる記憶と思いはすれ違う。

母親は、大切に育てられた一人娘だった。
母の無償の愛に応えて、そしてただ誉めてもらいたくて母の期待に応えようとした。
母がいればそれでよかった。
あなたが、がんばったからよ。
あなたが、好きだからよ。
あなたを、愛しているからよ。
耳に心地よい、心の中を温かいもので満たしてくれる言葉を聞きたくて、母親は幼い頃から母の愛情を、この世の誰よりも愛されていることを確認するように求めてきた。

その母の褒める人と結婚した母親は、自分の一人娘を生む。
ただ母に褒めてもらうために…。
努力をしようとも思う。
自分が母にしてもらったように娘を愛そうとする。

だが、その最愛の母を亡くしたとき、母親の中で自分の娘への思いは変わる。

娘は小さい頃から母親にとって最愛の人は、おばあちゃんであることを感じていた。
おばあちゃんは孫である自分にもいつも優しくしてくれた。
おばあちゃんといると心は和んだ。
暖かい手や足で包んでくれるおばあちゃんをとても好きだった。

でも母親への思いは複雑だった。
小さい頃から住んでいた家が無くなり、父親の家に引っ越してからは、母親は女中のように働かされ、手はささけれだって若い頃に面影は何処にもなかった。
父親はだんまりで何も言わない。

母親の愛を求めて、母親を助けたくて、周囲に口答えする。
でもすればするほど母親から遠ざかる。

ミステリー小説として書かれた作品だが、愛するものを奪われた者の嘆きや、その葛藤ゆえに心が引き裂かれていく心理を、手記と言う独白と、回想と心の動きで描かれていくサイコドラマのようなスタイルで書かれている。

「無償の愛」と「母性」は、決して同じものではない。
でも優しさと愛を求める気持ちは、誰しもが持つものでもある。
恨みや憎しみは愛情の裏返しのようなところがある。
愛するがゆえに憎しみ、憎むがゆえに激しく接する。

意外な結末へと導かれる最終章は、何故かほっとさせるものがある。
そうだったんだと頷いた私がいた。

(J)
「母性」