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スベトラーナ・アレクシェービッチ  松本 妙子 訳

スベトラーナ・アレクシェービッチ Svetlana Alexievich

一九四八年ウクライナ生まれ。国立ベラルーシ大学卒業後、ジャーナリストの道を歩む。民の視点に立って、戦争の英雄神話をうちこわし、国家の圧迫に抗い続けながら執筆活動を続ける。二〇一五年ノーベル文学賞受賞。邦訳された著書に『アフガン帰還兵の証言』『戦争は女の顔をしていない』『ボタン穴から見た戦争』など。

松本妙子 (まつもと たえこ)

一九七三年早稲田大学第一文学部露文化卒業。翻訳家。アレクシェービッチの作品では『死に魅せられた人びと』を翻訳。

 

1986年4月26日、チェルノブイリ原発事故は起きた。今から約30年前のことだ。

「白ロシア共和国」と呼ばれ、

ソ連邦を構成する15の共和国のひとつであるベラルーシという国の首都ミンスクに住む作家アレクシェービッチが、

1996年に発表したのが、本書「チェルノブイリの祈り」である。

ベラルーシには原子力発電所は一基もないが、

国境近くには4つの原子力発電所があり、その内のひとつがチェルノブイリ原子力発電所だった。

人口1000万人の小国ベラルーシにとって事故は国民的な惨禍となる。

汚染された地域には今なお210万人が住み、子どももいる。

死亡率が出生率を20%上回っているという。

チェルノブイリ事故後、その放射線は約1週間で世界中に広がったと言われている。

ベラルーシ科学アカデミー核エネルギー研究所元所長のワシーリイ・ボリソビッチ・ネステレンコは本書の中で、

セシウム・ヨウ素・鉛・ジルコニウム・カドミウム・ペリリウム・ホウ素、量は不明だがプルトニウムなど、

450種類もあり、

ヒロシマに落とされた原爆の350個分にあたると説明している。

チェルノブイリ事故後に覆われた「石棺」と呼ばれる4号機の鉛と鉄筋コンクリートの内部には、

20トンほどの核燃料が残ったままでそこで何が起きているかは誰も知らない。

ロボットとヘリコプターの遠隔操作で作られたこの石棺には隙間があり、

放射性アエロゾルが噴出しているという。

もしこの石棺が崩壊すれば1986年以上に恐ろしい結果が待ち構えている様である。

この本はドキュメンタリー文学として、

事故に遭遇した人々の悲しみとその衝撃が書かれている。

爆発直後、チェルノブイリ原発が火事だと言われてその消化に駆け付けた消防団員たちは、

汚染されて5日後には亡くなった。

その妻の心に叫びには愛する者を奪われた悲しみや、

何も詳しい事情は知らされず、

疎開したもののすぐに家に帰れるものと思い、飼っていた犬や猫や家畜をそのままにし、

その後家には二度と帰れなくなった戸惑いや動揺が綴られている。

犬や猫は汚染物質として殺され、スズメは事故2年後にようやく姿を現わす。

未来はどうなるのだろう。

自分自身も含めて世界中の人々の未来はどうなるのだろう。

ふとそんなことを考えた。

(J)

 

 

 

 

「チェルノブイリの祈り」 未来の物語