jurinburogu201609171

スタニスワフ・レム
沼野光義 訳

スタニスワフ・レム
1921年、旧ポーランド領ルヴフ(現ウクライナ領)に生まれる。クラクフのヤギェウォ大学で医学を学び、在学中から雑誌に小説や詩を発表し始めた。51年に第1長編『金星応答なし』を発表。1950年代から60年代にかけて、地球外生命体とのコンタクトをテーマにした『エデン』、『ソラリス』(本書)、『砂漠の惑星』ほかのSF作品を発表。70年代以降は『完全な真空』『虚数』といったメタフィクションを発表した。その深遠かつ巨視的なテーマの作品から、20世紀世界文学史上の巨人の一人に数えられる。2006年死去。

『惑星ソラリス』として映画化もされた本書の内容は、実に多様的・多層的だ。その多彩さはさまざまな読み方を誘う。人間の意識を扱う心理学の本として読もうと思えば読めるし、ラブロマンスとしても読める。実存的な寓話でもあり、恐怖小説、哲学、形而上学的、宇宙論でもある。

物語は、私・ケルヴィンが惑星ソラリスに到着するところから始まる。惑星ソラリスで研究をしていた仲間のギバリャンは数日前に自殺しており、ギバリャンと共にソラリスで暮らすスナウトも疲れ切っていた。もう一人の研究者サルトリウスは、部屋に閉じこもっている。本来ならソラリス・ステーションに居るはずのロボットも一居ない。ステーションは物やごみで溢れかえり、荒れ果てていた。ケルヴィンは、スナウトに事情を聴こうとするが、彼は何も説明しようとはしない。ただ、事実だけを捉まえろと言う。

ステーションの窓の外には『海』と呼ばれるソラリスで唯一の生き物がいる。惑星ソラリスが見つかって以来、地球でのソラリスへの関心は高く、この『海』とコンタクトを取ろうとして、さまざまなことが試された。ソラリス学が打ち立てられ、さまざまな学説がたてられたが、やがて、どうしてもコミュニケーションがうまくいかない『海』への関心は、地球の人々の心から消え去ってしまった。ソラリスには、2つの太陽はある。その態様はそのときどき、暑い熱を持って、交互にステーションを照らす。

翌朝ケルヴィンが目覚めると、ベッドのそばには自殺をしたかつての恋人ハリーが居た。訳が分からず混乱するケルヴィンだが、ハリーは居ることは事実だ。そして、スナウトに事情をきき、このステーションで何が起こっているかを知る。このハリーは自分の無意識の一番深い所にあるもののようだ。『モノ』はソラリスから送られてきたものだった。『海』はステーションの人びとの意識の中を読み取っている。ケルヴィンは、ステーションの図書館でソラリスのことを調べる。仮説はいろいろと書かれているが、どれが真実かはわからない。そして、かたときもケルヴィンの側を離れないハリーとの生活が始まる。かつてのハリーそのものだった。ただソラリスのハリーは食べないし眠ることもない。死ぬこともなく再生する。ケルヴィンは年をとるが、彼女は年も取らない。殺しても死なない。ケルヴィンは混乱を際めるが、やがてハリーの存在そのものを受けとめていくようになる。

メタ・サイエンスフィクションと呼ばれる分野に属す「ソラリス」は、途方もなく大きな世界を描く。『海』とのコンタクトは、人類の想像を超えたものらしい。人間の価値からは思いつかないようなその生態は、奇妙でかつ興味深い。人間心理の深層にある罪悪感が生み出す「モノ」は、怒りと恐怖と憎しみ、殺意や深い愛情をもたらす。
「人間中心主義」ではコンタクトは取れなかった。その現実から目を背け、人々はソラリスから興味をなくす。意味深くも恐ろしくもある物語だ。

(J)

「ソラリス」