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ジュリアン・グラッグ  作

安藤 元雄 訳

ジュリアン・グラッグ 1910~2007年

グラッグの故郷はフランス・ロアール河下流のサン=フロラン=ル=ヴィエイユの小さな村である。
父親は裕福な商人であった。
ナントのリセで寄宿生活をし、パリにでてアンリ四世高校・エコール・ノルマンで学び、
地理と歴史の教授資格を得る。
一時は共産党に入って政治活動もしたが、戦争で動員されダンケルクの近くで捕虜となった。
送還後、ノルマンディーのカーン大学で助手をつとめ、
一九四七年からパリのクロード=ベルナード高校に奉職、
一九七〇年に退職するまで教師を続けた。
短期間に集中的に創作するタイプだった彼は、
夏休みに「読書と執筆」に明け暮れた。一種のアマチュア作家の態度を持ち続けたという。
小説の三作目「シルトの岸辺」にゴンクール賞を与えられようとされたが、それを拒否する。
文壇で共有される価値観そのものに馴染もうとせず、孤立した「異端の作家」とする態度を変えなかった。

 

「アルゴールの城にて」は、

20世紀フランス文学において特異な存在感を誇るジュリアン・グラッグのデビュー作品。

シュールリアリズム小説の匂いの強いこの「アルゴールの城にて」は、

シールリアリズムの芸術思想を色濃く漂わせているという。

破壊的なダダイズムの思想を受け継ぎ、

形式主義に陥っていた伝統芸術を否定し、心理的オートマティズムで自動書記的に想像力の赴くままに書かれたらしい。

フロイトの影響を強く受けたというシュールリアリズム運動の作品として、

筆の向くまま気の向くまま、人間の感性のある部分を描く。

 

アルベールはひと月ほど前に購入したアルゴールの屋敷に行く。

彼は高貴で裕福な家柄の血を引く最後の一人だったが、

この一族は世間的な交際が少なく、片田舎の屋敷の塀の中に厳重に閉じこめられていた。

15歳で天与の才能と美が花開き、パリでは誰もが類のない確信をこめて彼の成功を約束したが、

アルベールはいくつもの大学を転々とし、

見事なほどの独創的な着眼で注目を浴びながらも、友人をほとんどつくらなかった。

天上的なその美貌で多くの女性を魅惑したが、目もくれないのが常であった。

そんなアルベールの最も親しい友人であったエルミニアンは、

彼と同じように完璧なまでに文学や芸術に通じていた。

エルミニアンは、

一種の熱意、冷徹なおののき、本物の興奮が、きわどい操作の中に感じ取れる人だった。

そのエルミニアンは、

ハイデという名の天使のような美貌の女性とアルゴールの城にアルベールを訪ねる。

そして、

海と広大な森を抱えてそびえ立つ古城アルゴールでの3人の生活が始まる。

何かが起こりそうな予感と暗示に満ちた文体の中で、

それぞれの重層なイメージが恐怖と喜びの交差する世界をつくる。

まるで精妙な和音が、また不協和音がそれぞれの胸の内を飛び交う。

アルベールとエルミニアンという見違えるほどによく似た二人が、

熱や危険にうかされながら、生命と美との賜物に出会い、狂気の一歩手前にまで進む。

腐敗した甘美な空気を糧として、ハイデをめぐり心の倒錯を繰り広げる。

不思議なそして奇妙な3人の生活と心模様は、

シュールレアリズムと言われる技法の特徴なのか。

恐怖で喜びを支配するような文体に引き付けられながらも嫌悪する。

予感させる最終章は、

互いに離れられなくなった3人の当然の帰結だったのか。

比喩に比喩を塗り重ねられた文章は、

美しくもあり退廃的でもある。

現実にはありえないであろうアルゴールの城は、

人の心の奥底に潜む絶対に離れることのない人との触れ合いの場所なのかと、

想像した。

(J)

 

 

 

「アルゴールの城にて」